わたしのこと
少女時代の思い出
少年探偵団や怪人二十面相シリーズを貪るように読んでいた少女時代。本棚に並ぶ『江戸川乱歩』を読み尽くそうと3日に一度は図書室へ行った。
その子どもの頃の出来事は覚えているけど、乱歩の本の内容など、からっきし思い出せない。9歳からの私は、江戸川乱歩を推理小説家だと思い込んでいた。
奇妙な出会い
あれから15年。当時大流行したmixi で、とある奇妙な男性と知り合った。企画もののアダルトビデオを製作している男で、マゾヒストだった。
私にはSとかMとか言う性癖など無かったけれど、怖いとか気持ち悪いと思うことはなく、ただ不思議で、私の好奇心と探究心を大いに刺激した。
そしてその男は、私を、今まで居た狭苦しい社会から未知の世界へと連れ出してしまった。
江戸川乱歩
奇妙な男によって、私は沢山の人に出会ってきた。以前、登場してきた『赤福7箱』の人物。
彼もこの世界の住人で、マゾヒストの世界観を私に教えてくれた。
「人間椅子って読んだことあります? 江戸川乱歩の」
「どんな話?」
じゃあ、送ります… と言って、数日後には『江戸川乱歩傑作選』が自宅に届いた。
「江戸川乱歩は推理小説が有名ですけど、僕はこちらの乱歩作品の方が好きで」
彼に勧められるがまま、人間椅子を含む作品を読んでみたものの… 私にはサッパリ分からない。
人間椅子を語り合う
「よく分からないんだけど、どの辺がマゾで変態なの?」
「本の中の男は、女性に気付かれないよう椅子の中に入って生活を覗いているんですよ。気持ち悪いでしょう」
やっぱり、私には分からない。
むしろ、こちらの事を知られたくはないけど、相手の事は知りたい主人公の気持ちに共感するのだが…
「人間椅子って、椅子職人として生きてきた自分に疑問を感じて、世を儚み死のうとしたけど、どうせ死ぬなら誠心誠意込めた椅子の中に入って、違う世界を覗いてやろう… って話でしょう?」
「まぁ、そうですねぇ」
「その内、椅子に居るのを良いことに盗みを働き始めて。人間椅子になった側としては、見て分からない、つまり視覚を奪われてしまうから触覚で覚るしかない」
「ストーリーより、この椅子に座られた時の描写とか妙に生々しくて… 乱歩はマゾヒストだろう、と思うんですよ」
ふぅーん…
マゾヒストの気持ち
この『赤福7箱』の友人とは、身体の関係どころか、キスしたことも手を繋いだことも無かった。男女では無かったけど、彼は私の大切な人だった。
特に何を求めてくる事もなく、私のやりたい事を応援してくれた人。私は彼の気持ちを理解できず、拗れた関係を回復できずに終わってしまったけれど。
大人しくて控えめで、人を遠巻きに見ていたい彼が、友人知人の前で、私の前で泣いた日。
同席していた共通の知人から、このように言われた。
「毎月毎月、東京に来るくらい、彼は貴女の事が好きだったんでしょう。旅費だけで50,000円は遣って、色んな所に連れて行って、何でも買い与えて」
「えっ、いや… 彼は何も言わなくて、今更『私のために尽くしてきた』って言われても困ります。こちらが尋ねても応えなかった彼が、私の知らないところで妄想膨らませて… ちゃんと向き合って、どうしたいか言われたなら、私は彼を無下になんてしませんよ!誠実に受け止めたし、考えもしたし… でも自分で全部否定しておきながら、好きですって?どうしたかったの、私にどうして欲しかったの?」
現実には続きがあり、私は彼から酷く恨まれ憎まれてしまった。椅子の中に入り込む彼にウンザリしつつも、未だ自分の大切な人には変わりない。
椅子の中の恋
彼の愛し方は、まるで『椅子の中の恋!』
君さ、人間椅子を気持ち悪いって言っておきながら、君だって変わらないでしょう?勝手に恋をして、尽くして、憎んで恨んで…
あれからまた色んな人に座られて、喜んでいる事だろう。
椅子の中の恋!それがまあ、どんなに不可思議な、陶酔的な魅力を持つか、実際に椅子の中へはいってみた人でなくては、わかるものではありません。
by. 乱歩
あとがき
ゆみこさんという方の書評が好きで、触発されて書いてみました。
私としては、乱歩の『芋虫』のほうが好きですけど、おすすめの本を書くなら『人間椅子』のほうが面白く書けるのではないか、と思った次第です。
ただ書評を書くと味気ないので、作品を読んだキャラクターと、キャラクターの物語を折り込みました。
実話なので、『人間椅子』を語るには少々弱い気もしますが、お読みいただけましたら幸いです。
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