小説:「告白」湊かなえ ⑴聖職者 ネタバレ

日本文学

大切な娘が殺された
最初に「告白」するのは、愛する娘を生徒に殺された担任教師。訳あって入籍しなかった娘の父も余命わずか。かけがえのない大切な娘が、殺人の重さも分からぬ“13歳”に殺されながら、裁けぬ少年法の虚しさ。母女の執念が、中学生の不安定な精神が、生々しく書かれた一冊です。 (ネタバレ注意)

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はじめに

私は小説を読み終わると、決まってネットで本について調べます。同じ本を読んだ人の評価や感想、自分と異なる読み解き方を知りたくなるからです。想像力が掻き立てられる本であればあるほど、読み直し、深く掘り下げたくなります。本を読み終えてもまだ興奮が冷め止まぬ方々へ向けて、情報をまとめてみました。

”告白”では、第一章から第六章まで、5人の語り手によって事件の真相が述べられます。まずは第一章「聖職者」。

語り手の生い立ちから現在まで

語り手 (告白者):森口瑤子 30歳
S中学校の教員、2010年3月末で辞職する。
教員歴
都市部のM中学校  3年間
休職       1年間
県境のS中学校    4年間
計 8年

経緯
貧困家庭で育ち、育英会の奨学金で国立大学に進学。就職活動中に、教員になれば奨学金返済が免除になることを知り、教育者に。3年間中学校に勤務し、産前産後休業と育児休業を経て、S中学校へ転任。その際に生徒たちに対して「子供たちを呼び捨てにしない」「出来る限り同じ目線に立ち、丁寧な言葉で話す」を行うよう決めた。
2010年2月13日、最愛の娘が溺死。(2010年4月末、元婚約者が病死)

物語の舞台

時代:2010年3月~9月1日
舞台:S中学校一年B組(1999年または2000年生まれ)
★厚生労働省・全国中高生乳製品促進運動”のモデル校で毎日牛乳を200ml飲むことが決まっている。(番号で管理)
★生徒の問題で学校外に赴く時は、性別が生徒と同じ教員が対応にあたることとなっている。

実在の事件

『ルナシー事件』(1998年和歌山毒物カレー事件、2007年関西青酸連続死事件がモデル)
『K市・児童殺傷事件』(1997年神戸市須磨区児童殺傷事件がモデル)
2001年刑事罰対象年齢を16歳から14歳に引き下げることを含めた改正少年法が施行される。

『T市・一家五人殺害事件』(2005年静岡タリウム少女母親毒殺未遂事件がモデル)
犯人は不美人であると話題になっていた。(2014年名古屋大学女子学生事件も共に)作中で登場する、事件が起こった学校の化学部顧問とは、おそらく1991年東大タリウム毒殺事件がモデル。犯人は上司でタリウム保管の管理者だった。

登場人物

S中学校一年B組の生徒
・家が電器屋の渡辺くん(アダルトビデオのモザイクがほぼ消せる)
・先生の話に笑ってしまった、田中さんと小川くん
・世直しやんちゃ先生に憧れる阿部くん
・戸倉先生が苦手な長谷川くん
・恋愛に同情した井坂さん
・最前列に座る浜崎さん
・愛美と遊ぶ内藤さんと松川さん(部活は美術部)
・家族とショップングセンターへ買い物に来ていた下村くん
・野球部の星野くん
・北原さん
・曽根さん

S中学校の講師
・性同一性障害の男性教師(生徒に嵌められカミングアウト、転勤後は女性教師に)
・A組担任・体育教師・テニス部顧問の戸倉先生

森口瑤子周辺の人物
・桜宮正義先生(森口瑤子の娘の父親。通称・世直しやんちゃ先生。 病死 享年34歳)
・わたうさちゃんが好きな娘の愛美(2010年2月13日溺死 享年4歳)
・学校のプール裏手に暮らし、愛美の面倒を見ていた高齢の竹中さん
・竹中さんに飼われている犬のムク

キーワード

思春期:性徴期と反抗期の総称
HIV感染確率:膣内性交・女性側0.1%(100回に1回)
話題のケータイ小説:「Deep Love」(主人公が危険な援助交際でHIV感染、病死)

未成年者の犯罪

年齢制限
成人すると法で飲酒や喫煙が認められるが、実際は個人の倫理観によるものでしかない。

少年法
1990年代に16歳未満の児童による凶悪犯罪が多発し、2001年に少年法が改正された。

更生保護

犯罪少年:14歳以上の罪を犯した少年

触法少年:14歳以下の罪を犯した少年

虞犯少年:将来罪を犯す恐れがある少年

児童福祉法により、14歳以下の「触法少年」は逮捕されません。14歳以上18歳未満の虞法少年も児童自立支援施設や児童養護施設に送致されます。

犯罪少年と、問題のある虞法少年は、全員が家庭裁判所に送致されます(全件送致主義)。

事件について

愛娘の殺害当日
保育所に預けてからの3年間、毎日16時に学校のプール裏手に住む竹中さんが愛美を迎えに行っていたが入院し、延長上限時間の18時まで預け、職員会議のある水曜日のみ保健室で待たせていた。、ショッピングセンターで大好きなわたうさちゃんのポシェット700円を見つけてねだるも応じなかった。下村くんから「買ってあげれば」と言われてしまう。
殺害当日、18時少し前に会議が終わり保健室行くも愛美は居なかった。校内を探していると生徒から17時頃も居なかったことが告げられた。第一発見者の星野くんは、プールに浮かぶ遺体を発見した。警察からは事故死と判断された。愛美は、ムクに餌を与えるため、竹中さんの家へ行っていた。真実は、愛美の死が事故死ではなく、担任するクラスの生徒による殺害であったと理解し、辞職を決意した。

犯人Aと犯人B

HIV感染から14年後、いよいよエイズ発症となり、愛美の父は保育所へ愛美に会いに行った。しかし、生きている愛美を腕に抱くことは無かった。告別式の後は、保育所の先生や友人、S中の先生方や生徒たち、退院したばかりの竹中さんなどが弔問に訪れた。竹中さんが持ってきた遺品の中に、買った覚えのないわたうさちゃんのポシェットを見つけ、中に電気細工が施されていることに気付く。また、ムクが野球ボールで遊んでいたことにも疑問を抱き、森口瑤子は犯人と思われる生徒を問い詰めた。

少年A
森口瑤子は、事件より前に、同級生Cからの情報提供でAが動物虐待をしていることを知った。生物分野で満点を取ったAは、webサイト“天才博士研究所”を立ち上げ、動物殺害の様子を掲載していた。また、Aの発明品で悪戯されたこともあり、これらを職員会議で報告するも、模範生Aの話はお蔵入りに。程なく、Aから『全国中高生科学工作展』出展の指導員署名を求められ、戸惑いつつも応じた。結果、Aは電流が流れる“盗難防止びっくり財布”で全国大会3位の特別賞を授与し、ますます自己承認欲求が高まっていく。しかし世間の関心は、同じ13歳の少女が起こしたルナシー事件一色に。“良い事よりも悪い事の方が注目される、もともとある薬を使ったものがなんで凄いんだ、僕ならアイテムを作り出すことが出来る”。事件のことさえ、遺族に意気揚々と話し続けてしまう。森口瑤子は、外れた倫理観を持つAに、あのわたうさちゃんのポシェットに細工を施し、発明など誰でも作れることを示し、科学者(発明家)の倫理観こそが大切であると説いた。

少年B
Aから話を Bは、入学後テニス部に入るも、未経験であるため基礎体力作りばかり。夏休みにはグループ分けされ、自分の練習はいつも学校ランニング、ひ弱な生徒と2名だけ。顧問に相談するも「周りの目ばかり気にしていても、強くはなれないぞ」と厳しく言われ、その翌日、母親に電話をかけさせ退部した。その後は塾通いを始めて成績は上昇していったが、停滞期に入り、同時期に始めたFに学力を追い越されてしまう。ムシャクシャしてゲームセンターへ入るとカツアゲに遭い、警察に保護された。迎えに来たのはテニス部顧問の戸倉先生。担任の森口瑤子が来なかったことにショックを受け、戸倉先生の叱責に腹を立て、過保護な母親に甘やかされ、不満と反抗心がBを蝕んでいった。

AとB

授業中、ノートに「死ね」と書き綴っていたBを見て、Aは声をかけた。打ち解けた2人は、あの“盗難防止びっくり財布”改良版のターゲットをBが指名し、戸倉先生、森口瑤子、そして森口瑤子の娘愛美を挙げ、Aが愛美にすることを決めた。Bは、愛美が学校に来た日の行動や最近の出来事を告げ、計画を遂行した。 学校のプール裏手の竹中さんの家でムクに餌を与えていた愛美に、AとBは声をかけ、わたうさちゃんのポシェットを渡した。細工したポシェットの電流を受けて愛美は気絶、認められたいAは、Bに「(事件の経緯を)言いふらしていいよ」と去ってしまった。Bは動転して愛美を抱えプールに放り込み、逃げ出した。

復讐

2010年3月下旬、S中学校の終業式

森口瑤子は、愛美の死因は『水死』であり、手を下したのはBである。 AもBも殺してやりたいが、自分が聖職者(教員)であったこと、2人には命の重さと大切さを知り、自分の犯した罪の重さを知り、背負って欲しいと語った。

そして、限りない命になって初めて気が付くと考え、AとBの飲む牛乳にHIV感染者の血液を注入した。

感想

「犯罪者が居る恐怖心より、好奇心がまさっていますね」
“告白”をする森口瑤子がクラスに対し、こう言い放ちます。でもこれ世間の反応と同じですよね。語り手それぞれの思いで綴られた“告白”を、私も小説に寄せて綴ってみます。

事件の被害者遺族である森口瑤子は、最愛の娘を殺された恨みを、殺人犯の少年が最愛の母を自らの手で殺すよう仕向け、晴らしました。少年は自責の念に駆られることを想像したのでしょう。しかし、このような少年には状況に適応できる能力が備わっている気がします。僕じゃないアイツのせいだ、母親は僕を邪魔者にしたから粛清は当然なのだ、などと自分に言い聞かせ、たとえ刑を償ったとて、本当に反省することがあるのでしょうか。私がそんな事を考えるようになったのは、世間を震撼させた「女子高生コンクリート詰め殺人事件」のそれまでと、その後を知ってからです。

ある弁護士は、少年は更生できる、統計上でも数値が示されていると言いました。だから法は未来を担う若者を正し、社会に送り出すべきと。大人になっても変わらず犯罪を重ねた、あの「少年」たち。真面目に生きている人が騙されたり、殺されたり、被害者に人権など無く命を奪われ、加害者に人権や法の裁きを与えたとて、かけがえのない命の償いなど本当に出来るのでしょうか。

人は、限りある命だからこそ美しく、精一杯生きなければならないのです。そして、そんな命を見守る人が必ず居るから、人は、生きていくことが出来ます。

作者の湊かなえ氏の作品は、イヤミス(後味の悪い結末、嫌な気持ちになるミステリー)の女王と言われていますが、むしろ私はスッキリしました。法で裁けない遺族らの思いが少しだけでも満たさた気がしたからです。

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